愛の形
「これで真司も自由だね」と、ふざけた言葉を残して。
*****
緒方真司が元恋人に拒絶され、樋山家から自宅へ向かう同時刻。
「結婚しないの?」
「きみと?」
「そう、俺と」
真司の兄とその親友が、とある一室で紅茶を飲みながら会話を交わしていた。
親友に問いかけられた真司の兄、怜司は首を傾げた。
「俺はホモじゃない」
「知ってる」
「お前もホモじゃない」
「そうだよ」
「この国の法律じゃ結婚できない」
「そうだね」
淡々と事実を並べていく怜司と、それに頷く木瀬和輝。
傍から見ると、ただの世間話だ。
「でもさあ、緒方」
和輝が怜司を呼ぶ。
「俺、お前以外と一緒にいるの、想像できない」
「そうだな。ところでお前――」
怜司は頷き、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
和輝は一瞬、息を止めた。
「俺とキス、できるのか?」
「してから訊くの?」
苦笑しながら、和輝は自身の唇に触れた。
たしかに今、ほんの一瞬、吐息を分けた。
「あのさあ、緒方」
「なんだ」
「俺と一緒に、いてほしいな」
我ながら随分弱気だと和輝は思った。
怜司は呆れたように笑った。
「お前次第だ」