旅の終わり | ナノ

愛の形

しおり一覧

 まさかとは思うけどさ。
 俺が気づいてないとでも思った?
 いっつも、イヤラシイ目で俺を見てくれちゃってさ。
 この際だからはっきり言わせてもらうけど。
 気持ち悪いよ、ヘンタイ。
 子どもたちは出入りしても構わないよ。
 かわいいかわいい、すみれちゃんの子だ。
 
 でもね、きみはだめ。

 もう二度と、そのツラ見せないでほしいな。



 かつての恋人から告げられた言葉を、緒方真司は黙って聞いていた。
 これが、逃げ続けた自分への罰だと。
 妻と子を護ろうとしなかった自分への罰だと。
「今まで、ありがとう」
 真司が搾り出した最後の言葉は、空虚に浮いた。
 元恋人――樋山恭介は、不快そうに口端をつり上げた。
 真司は樋山家を静かに去った。
 自宅へ帰る道すがら、妙に清々しい自身に呆れた。
「俺は、愛してた」
 やはり白々しい、言葉。
「お前を愛して、すみれさんに会えて、葵たちに会えた」
 もう、涙は出ない。
 恭介の手を取り、恭介の手を離し、そして恭介を檻に閉じ込めた。
 鍵を壊した恭介は本物の自由を手に入れた。
 ――あんまりだ、恭介。
 俺の手を引いたのは、いつだってお前だったというのに。
 今更、崖から突き落とすなんて。
 何もかもがお前らしくなくて、まったくの別人の仕業のようで。
 過去の恭介が今の恭介を見たらどう思うだろう――なんて。
 意外と喜ぶかもしれない。


*前次#

back
MainTop

しおりを挟む
[2/54]


- ナノ -