愛の形
まさかとは思うけどさ。
俺が気づいてないとでも思った?
いっつも、イヤラシイ目で俺を見てくれちゃってさ。
この際だからはっきり言わせてもらうけど。
気持ち悪いよ、ヘンタイ。
子どもたちは出入りしても構わないよ。
かわいいかわいい、すみれちゃんの子だ。
でもね、きみはだめ。
もう二度と、そのツラ見せないでほしいな。
かつての恋人から告げられた言葉を、緒方真司は黙って聞いていた。
これが、逃げ続けた自分への罰だと。
妻と子を護ろうとしなかった自分への罰だと。
「今まで、ありがとう」
真司が搾り出した最後の言葉は、空虚に浮いた。
元恋人――樋山恭介は、不快そうに口端をつり上げた。
真司は樋山家を静かに去った。
自宅へ帰る道すがら、妙に清々しい自身に呆れた。
「俺は、愛してた」
やはり白々しい、言葉。
「お前を愛して、すみれさんに会えて、葵たちに会えた」
もう、涙は出ない。
恭介の手を取り、恭介の手を離し、そして恭介を檻に閉じ込めた。
鍵を壊した恭介は本物の自由を手に入れた。
――あんまりだ、恭介。
俺の手を引いたのは、いつだってお前だったというのに。
今更、崖から突き落とすなんて。
何もかもがお前らしくなくて、まったくの別人の仕業のようで。
過去の恭介が今の恭介を見たらどう思うだろう――なんて。
意外と喜ぶかもしれない。