四季の都 | ナノ

人間嫌いの王子様

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「声も、出ないのですね……」
 食後、カイが自身の喉に触れ、じいっと樹を見つめると、樹は泣きそうに頬を歪めた。
「これを、読めますか?」
 手近な紙に書いて寄越した短いであろう言葉も意味がわからない。
 首を横に振ると、樹は大きく息を吐いた。
「では、僕が傍にいます。たぶん僕は、他の者たちよりもカイさんの考えていることがわかるはずです」
 他者の考えがわかるなんて、傲慢なことを。
「あ、やっぱり傲慢ですか?」
 カイの憤りを読み取ったのか、樹がくすりと笑う。
 まさかこいつ、心を読めるのかと思ったが、先程、棒の使い方がわからず途方に暮れていたときは全く見当違いであったことから、推測する能力が長けているのだと思われる。
「僕が近くにいては、嫌ですか?」
 沈んでいく思考の中に、静かに食い込む問い。
 カイはゆっくりと、首を横に振った。

*****

 水の要素で封をした巻貝を振り、魔法使いは大きく息を吐いた。
 ぷかりと出てきた泡は、水の上の世界へと向かう。
「無防備すぎるよ、ショク」
「あなたに似てね」
 苛立たしげな声と少し乱れた息。
 まったく、どいつも勝手に不法侵入。
「出ていきなよ、汎」
「嫌です」
「匿う余裕なんてないし、そもそもそんな義理ないし。とっとときみもおうちにお帰り」
「それができたらとっくに帰ってます」
 汎を見向きもしない魔法使いへ吐き捨てると、魔法使いが微かに笑った。
「流も考えたね。確かに、渦を呼ぶより衛兵を呼んだ方が早い」
「見てたんですか」
「まあね。かわいい姪のことだし」
「では、かわいい甥であるはずのショクを人間に変えたのはなぜです」
「俺も疑問に思ってたところだよ」



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