四季の都 | ナノ

籠の鳥と言いますが

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「どっこに消えたあのオトコぉおおおおおお!」
「まあ、やることなすこと昔から変わってたけど……。あはは」
「真面目に捜せえええええ!」
 いきり立つ青年とそれを宥める少年が、小さな家の中にいた。
 魔術師の少年はひょいと肩をすくめ、手元の水を張った盥の淵をなぞってぶちぶちと愚痴る。
「だってえ……。相手は賢志だよォ……? 俺に捜せるわけないじゃん!」
「開き直るな!」
 賢志の消えた1週間後、元勇者と共に旅をしていたふたりは、その優秀さを認められ今では元勇者と元魔王を追う仕事を請け負っている。
 逆に言えば、他の人間には逃げているふたりを捕まえられないということだ。
「これってさあ、体の良い追放だよねえ」
「黙れ珠里」
 魔術師の珠里(ジュリ)は弓使いの杜今(トイ)にばれないようにひっそりと笑った。
 本当は剣士だったけど真桜(マオ)と名乗ると魔王に間違えられるので、いっそ魔王になることにしました、なんてどこかで聞いた理由に共感したらしい賢志は、刑の執行直前に魔王を連れていずこかへ姿を消した。
 当日の朝までいつもと変わらぬ無表情だったのに、大人しい人ほど何をしでかすかわからないというものだ。
 真桜は一見、少女と見紛うほど美しく華奢で、人の噂を辿ればすぐに捕まえられると思っていた。
 魔王の真の姿を見た自分たちは本当に王から追放されているのではないかと珠里は思う。
「真桜、かわいかったねえ」
「お・ま・え・は! やる気あんのかー!」
「あはははは。それよりさあ、杜今」
「……なんだ」
「そろそろ、弓を捨ててくれない?」
「嫌だ。自分の身は自分で守る。基本だろう」
「まあね」
 将来、幼馴染3人で組むことはなんとなく予想がついていたのでそのときのために専門が被らないようにしただけで、賢志が魔術師だった頃は珠里が弓使い、杜今が剣士だった。
 3人だとバランスのいいそれも、ふたりだと魔術師と剣士がちょうどいい。
 魔術師と弓使いだと遠方からしか攻撃できないし、剣士と弓使いだと防御に乏しい。
 しかしそれは普通のパーティの話。どれにあたってもそれなりに使いこなせる賢志、珠里、杜今にとっては役割はあってないようなものだった。



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