四季の都 | ナノ

君を信じる理由

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 復讐してやる。
 この手であの男を追い詰める。
「瑞樹は昔から恭介馬鹿だったもんなあ」
「……うるさい」
 にやりと笑った幼馴染の顔を直視できなかった。
「もうちょっと待ってれば、俺が真司を恭介から引き剥がしたのに」
「どうだか」
 瑞樹は弟の手によって首筋に剣を突きつけられていた。
 柚葉は視線で貫けるものなら貫いてやると言わんばかりの鋭さだった。
 亮介はやれやれといった様子で息を吐き、ついと瑞樹の右耳朶に触れた。
「ふうん。両耳開けたって噂、本当だったんだ。中身は?」
「捨てた」
「俺が君にあげたやつも?」
「どこかでとれた」
 あげたという形容が正しいのかどうか首を傾げたくなったが、瑞樹は平然と返す。
「嘘吐かなくていいんだよ、瑞樹。秋一さんにしか外せないことは裁判官と領主は知ってるんだから。ああ、今は護衛も、だけど」
 危険を承知で城下に飛び込んだ。
 実際には探りを入れる前に、恭介の死を知った瑞樹が絶対に帰ってくると踏んでいた亮介の方が上手で、入口で待ち構えていた柚葉に捕まってしまったわけだが。
「さあ、牢屋へ行こうか」
 柚葉の放つびりびりとした緊張感に支配された空間に似つかわしくない明るい声で亮介は言った。


 どんなときでも、仕事はする。
 瑞樹が去った翌日も秋一は工房の扉を開けた。
「真司……」
 秋一は現実から目を逸らさなかった自分を褒めてやりたかった。
 こちらを振り返ることなく竈を撫でていた真司へ秋一はぼそりと問いかける。
「なんでここに」
「なんでって……。試し打ちしてたら足りなくなったから針をもらおうと。逃げ切る分も含めて、250ほど欲しい」
「もう、役目を果たしたんじゃ……」
「役目?」
 訝しく思ったらしい真司がやっと秋一を見た。
「領主を討ち取るっていう」
 言いながら嫌な予感が背筋を這う。声が震えないよう一呼吸を挟み、秋一はゆっくりと訊ねる。
「いや。明後日あたりにでも決行する予定だが。なぜ」


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