懸想
この国で王位継承権を持つ王子は18人。
年功序列ではないが、継承第一位は今のところ長男のリュウである。
リュウは滅多に口を開かない。
どの発言が命取りになるかわからないから自制してらっしゃるのかと思いきや、もともと口数の少ないお方らしい。リュウの乳母から聞いた話だ。
コウ自身は口をきいたことがないので、リュウがどんな人かは知らない。
知らないけれど。
想い人の容姿を脳裏に描き、リュウの部屋の門番であるコウは正した姿勢に人を寄せつけない雰囲気を纏う。
一門番のコウ。
王子さまに懸想中である。
同性だとか身分違いだとか、そんなことはどうでもいい。
あれは一昨日のことだ。
リュウの護衛として街に現れた刺客をコウは倒せなかった。それどころか、追い詰められた。
死を覚悟したコウが見たのは、刺客を返り討ちにするリュウの姿。
自警団に捕らえられた刺客を見送ったあと、リュウはコウの首筋に剣先を突きつけ、冷めた瞳で「この役立たず」と罵った。
初めて聞いた王子の言葉に唖然とし、そして惚れた。
リュウはきっと、コウが門番であることも知らないだろう。
俗世間に興味のなさそうなお方だ。
「リュウさま」
扉の向こうの彼の人へそっと呼びかける。どうせ誰も聞いてはいないのだ。
いつか、至高の存在となられる方。
この想いは、一生胸に秘めております。
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扉をいとおしむように触れる。
この向こうに彼はいるのだ。
泣きたくなるような想いを封じるように、リュウは窓の外を見つめた。
夕日は輝かしく城下を照らしている。
コウに呼ばれた気がして、リュウは再び扉に触れた。
ありえないとわかってはいるけれど。
一昨日のことを思い出し、リュウは口元を自嘲気味に歪める。