四季の都 | ナノ

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 ああ、兄上。
 そんな顔をなさらないで。
 これは俺たちが勝手に決めたこと。
 あなたが気に病むことは何ひとつないのです。
 生きて、民を導いてください。

 こんなことを望んだわけではない。
 弟たちの命を食って、俺は生きている。

 知ってるでしょう。
 遠い異国の地では、盗人の異称なんだ。
 生まれながらにして、俺は奪ってる。
 あんたから、両親を。
 だから、俺が返す番だ。

 冬の精は、一心に駆けてくる子どもの足音を聞いた。
 その音は冬の精が腰かけていた木の根元で止んだ。
冬の精が枝から身を乗り出すと、歳の頃が7か8の少年というには幼い子どもがじっとこちらを睨みあげていた。
その傍らでは、睨みあげる子よりも僅かに年嵩に見える、恐らく兄であろう少年が弟に手を引かれ、ぼんやりと遠くを見つめている。
「神さま!」
 唐突な呼びかけよりもその呼び名に驚き、しかしそれは子どもに悟られなかったはずだ。
 返事をしない冬の精に構うことなく、子どもは叫び続ける。


 どうか、兄を連れていかないでください。
 兄を――、渚を連れていかないでください。
 代わりに、俺たちの命を捧げますから――ッ!


 ふむ、と冬の精は首を傾げた。
 死神に転職した記憶はないのだが。
 この子どもらは何を勘違いしているのだろう。
「ヒトの命を狩る趣味はない」
「ならば、兄を」
「それは時の定め。致し方ないと思う」
 弟の瞳の険が増す。
 兄は相変わらず遠くを見ている。
「俺たちは兄を諦める気はない」
「それは結構。しかし、貴様の兄を救う手立てを私は持っていない。他を当たれ」
「ねえ、死ぬ順番を変えることはできる?」
 兄はどこか周囲を小馬鹿にしたような口調で冬の精へと語りかける。
 その瞳が冬の精を捉えることはない。
「光を持たぬ者、闇持つ者よ。それは可能だ。なぜならば、幼き者から命を落とせばよいのだから」
 本来持つ寿命の長さが同じだとすれば、年嵩の者から亡くなっていくのが自然の理。
「それでいいから。ねえ、冬の精。お願い」
「ものを頼むときに、そのようにぞんざいに言うのが貴様らのしきたりか」
「いや。でも、きみは拒めないよね。領主の一族に仕えるきみならば」
「では、契約を交わそう」
 冬の都の領主一族は自然を統べる者と契りを交わし、そして歳の幼い者から亡くなる。
 年嵩の者を生かすために。

2013/08/07



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