人間嫌いの王子様
血の気が引き、息をするのも苦しい。
「カイさん? カイさん!?」
下賤な人間の名付けなど、受け入れはしない。
ショクの様子がおかしいことに気がついた樹の呼びかけにも、やり場のない怒りがこみ上げるばかりで。
がんがんと鉄格子を叩く音も、師に詰め寄る怒鳴り声も、ショクの不快感を増すばかり。
罵ろうと口を開いても、声は出なくて。
「樹にばれたから、悔しさにもがいているのでしょう」と見当違いの言葉を投げつける、樹の師。
「ちょうどいい。明日、彼女との見合いの席で、よい見世物ができそうです」
「いつ、そんな話を――! 僕は、聞いていません!」
「あなたはこれにつきっきりでしたからね。鍛錬の時間にお伝えするつもりでしたが、こちらが緊急でしたもので」
「先生っ!」
必死な樹の声もただの茶番に見えて笑える。
ああ、でも。
父上。
叔父上。
流。
汎。
家族や幼馴染のことを考えると、罪悪感に胸が痛んだ。
俺は、泡と還ることも叶わずに、刺し違えることもできずに、母上と同じ運命を辿るようです。
流、汎。
人魚たちのよい世界を作ってくれ。
*****
「俺は契約を違えない主義なんだ」
ショクと約束した。
もうこの薬は作らないと。
担保に、声と名と、記憶をこの巻貝に封じた。
だけど、この要素が弱まっているから、たぶん、どれか戻っちゃっただろうね。
その代わり、流にはこれをあげる。