四季の都 | ナノ

人間嫌いの王子様

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 しかし、波間を漂うような心地よい揺れに誘われ、カイは眠りについた。

「こいつが」
「先代の命を?」
「しかし今更」
「でも、そっくりだ」
「人魚は歳を取らぬというし」
「そもそもの元凶は」
 うるさい。
 ここは、どこだ。
 しわがれた声に囲まれ、腕を動かそうと……動かない。
 後ろ手に縛られて、床に転がされているらしい。
 カイがうっすらと瞼を上げると、当たりがどよめいた。
 柵の向こう側から数人、カイを観察しているらしい。
「――ッ!」
 怒鳴ったが、声は出なかった。
「やはり、地上では声が出ないというのは本当らしい」
 顔を見合わせ、しきりに頷き合う人間たち。
 その中に、樹の師が見えた。
「カイさんっ!」
 その声に、人間たちがはっとしたように俯く。
「カイさんっ! カイさん――ッ!」
 ここまで来る途中に浴びたらしい血の臭いが鼻を突く。
 ああ、そうか。
 樹は国で二番目に強いんだもんな。
 俺より弱いけど。
 カイは昼の勝負を思い出し、ひとり笑う。
「この牢の鍵をください、先生」
「駄目です」
 師に詰め寄る樹が見える。
「あれは人魚です。あなたも先代のように、命を奪われるかもしれない。直ちに八つ裂きに」
「それは先生であっても許しません」
「先代の恨みを、ここで晴らさずにいつ晴らしますか」
「生きている人間が無事であればいい」



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