人間嫌いの王子様
「心配してくれてありがとうございます」
誰も心配なんかしてない。
ただ、今、倒れられたら、樹と引き離される気がして。
故郷が一歩、遠くなる気がして。
「やっぱり、今日はもう休みましょう」
緊張が切れたのか、欠伸をする樹は、その年齢よりも幼く見えた。
いつも通り夜中に寝台を脱け出し、戻ってきた樹の様子がおかしかった。
息が荒く、寝返りを打ったカイが手を握っても、その手を強く握り返すくらいに。
いつもなら、そっと外すくせに。
おい、どうしたんだ。
声にならない問の代わりに火をともすと、樹の胸元が血で濡れていた。
「大丈夫なんです。大丈夫。だから、誰も呼ばないで」
息を呑んだカイへ、樹は無理して笑った。
「ほら……、もう、眠りましょう」
浅く切れただけというのは、わかっている。
だけど、俺に何もできることはないのか。
息が浅くなり苦しそうな樹の負担にならないように、カイができることは。
少しだけ、笑おうと思った。
少しだけ笑って、寝台に顔を埋める樹の体を後ろから抱き締めた。
「カイさん……?」
知ってるか、樹。
体温だけで、落ちつくこともあるんだぞ。
心臓の鼓動に合わせて、胸を軽く叩いてやる。
「ありがとうございます」
樹の血に濡れた左手がなぜかびりびりと痺れたけれど、カイは樹が眠るまで、ずっとリズムを刻んでいた。
*****
「カイさんも体を動かしてみましょうよ」
そういって連れてこられたのは、砂浜だった。
「ここで、カイさんに出会ったのですが……。憶えていますか」