人間嫌いの王子様
「少し、休憩にしましょう、カイさん」
「――ッ!」
まただ。
心臓が、ぎりっと音を立てた気がした。
声が出なくてよかった。
……悲鳴が出ただろうから。
どろりと胃の奥から何かが溶けだしたような、脳の奥を掻きむしりたいような強い感情は、樹の笑顔を見たときに発露する。
最初は、心臓が小さく跳ねただけ。
次第に破壊的な衝動になっていくこの感情の名をカイは知らない。
すべてを手に入れたい。
壊したい。
たとえば、心臓の血――。
「はい、どうぞ」
カイに付き合ったせいで、掠れてしまった声と共に差し出されたかわいらしいコップ。
中で揺れる、飴色の液体。
「紅茶。好きでしょう?」
どうぞ、と言われ、ゆっくりと受け取り、頭を下げる。
「音読しますよ」
苦しげな声であるのに、本を手に取ろうとする樹の手を、カイは掴んだ。
「……カイさん?」
首を横に振る。
今日はもういい。
お前も休め、というつもりで、とんとんと樹の胸を叩く。
なぜか、無性に切なくなって、悔しくて、息の塊を吐き出す。
「カイさん」
心配そうな樹の顔。
そんな顔をさせたいわけではないのに。
「そうですね。毎日毎日、記憶探しばかりだったら、疲れますよね」
んー、と肩を上げ、天井をじっと睨んでいた樹は、ひとつ頷いた。
「僕たちに似ている話があるんです。休憩がてら、読みましょうよ」
それでは当初の目的を果たせない。
机に伏せ、疲れたことをアピールすると、樹は、カイの気づいてほしくない意図に気づいたようだった。