四季の都 | ナノ

知ってたよ、全部

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「カイさん」
 荒い息で、持ち上げられた体。
 ああ、もう、
「さよなら」
 尾びれに戻ってる――。

*****

「別にさあ、あの短剣に心臓の血を吸わせろなんて言ってないし。そりゃあ、薬のときは言ったけどさ」
 牢の向こう側で、そう言ってにやにやと笑う魔法使いに、殺意が芽生えた。
 この牢は、ショク自身の要素が練り込んであるために破れない。
「いいんじゃない、初志貫徹。男らしくて好きだよ、俺は」
「で、何しに来た」
「投獄された王子様を嗤いに」
 掟破りや憎しみという点では魔法使いや流の方が何倍も上であると思うのに、父王はなぜかそちらには言及せず、息子を陽の当らぬ場所へ置いた。
 泡たちの囁きでは、汎も流に嵌められ、罪人となったという。
 今では抜け殻のようになっているそうだ。
「馬鹿だよね、ショク。愛する人の傍にずっと居ればよかったのに」
「……お前には言われたくない」
 魔法使いは少し驚いたように表情を消した。しかし、すぐに嘘っぽい笑みに上塗りされていく。
「負け惜しみはいいよ。深追いしないのが俺の主義だから。じゃあね」
 どちらが先に死ぬかわからないが、恐らく、これが今生の別れになるだろう。
 ショクは光を消した瞳で、遠く、水上を想った。



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