四季の都 | ナノ

知ってたよ、全部

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 その言葉で、唐突に思い当たる。
 ショクの心を読んでいるとしか思えないほど当たっていたあてずっぽうが、すべて外れている。
「じゃあ、下も」
 短剣を自身のベルトに挟んだ樹の手がショクのズボンに掛かる。
 ショクはその手を上から掴んだ。
「いい加減大人しくしてください、カイさん」
 振り払う手と、樹の声音が一致していない。
 樹はショクのことがわかると言っていたけれど、ショクだってまったくわからないわけではないのに。
「もしかしてやっと、これからやろうとすることに思い当たりましたか」
 そして樹は、少しだけ、優しく笑った。
 思い当たってなど、いない。
 しかし樹は気づいていないのか、そのふりをしているだけなのか、ショクの意思を汲み取ることはない。
「まあ、ズボンは後でいいですかね……」
 樹の手が、短剣の刃を摘み、柄をショクの右手に握らせる。
 ショクが受け取ったのを確認すると、樹はその上からショクの手を強く包んだ。
 ぐいと引かれる。
 樹の左胸に、握ったままの手が当たる。
 待て。
 俺は短剣を掴んでいるはずなのに。
 柄だけを残して短剣が消えた。
「ちょっとだけ、我慢してくださいね」
 手早くズボンを脱がせる樹に呆気にとられ、
「……ッは」
 樹の苦しげな声と共に、引き抜かれる、それ。
 樹がそれを放り投げたとき、何かで手が濡れる。
 あいつが跪く。
 脚が、あいつの血で濡れていく。
 びりびりとした痺れが広がっていく。
 立っていられずしゃがみこんだショクの両脇に手を入れ、片足で扉を開けた樹はずるずるとショクを引き摺っていく。
 日の沈んだ海の風が、頬を撫でていく。



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