知ってたよ、全部
たとえ、今まで愛情のみだったその声に侮蔑の色が見えても。
ほんの少しだけ、愛したものの声は、わかる。
流の話を聞かれたかと一瞬、身構えたがそうではないらしい。
「見世物なんですから、そのときまでおとなしくしていただかないと」
ほら。
好意なんてまやかし。
女に会って、目が覚めたに違いない。
「部屋に戻りますよ」
今、こいつを刺してその血を手に入れられれば、すぐ海に飛び込める。
なのに、強引にショクの腕を掴む手が震えているように感じられたから、ショクは黙って従った。
扉を開けて背を押され、転びかけた。
ショクが睨んでも、樹は無表情だ。
先程ショクが目覚めた寝台の枕元に腰かけ、じいっとショクを観察している。かと思えば、ふっと目を逸らされた。
「もうすぐ日が沈みます」
ぽつりと、ひとりごとのように樹は言う。
「脱いでください」
面倒臭そうに、しかしショクを射抜く眼光は鋭い。
やはり、短剣を忍ばせるのを見られていたか。
「意味、わかりますよね?」
咄嗟に布の上から短剣を押さえ、扉へと走るが、どこをどうしたものか、びくともしない。
「カイさん」
俯いていたら、顔を覗きこまれる。
ショクより僅かに低い位置にある瞳に浮かぶ嘲りを見て、ショクは樹を舐めきっていたことを後悔した。
「脱ぐだけでいいんですよ? この部屋にはふたりきりですから」
冷めた目でこちらを見遣る樹に、ショクは違和感を覚えた。
「できないならば、僕がやりましょう」
その正体を探すために考え込んでいたら、そのまま上着を脱がされた。
腕から床へ布が滑り落ちたとき、ゴトリと重たい音を立てる。
「……へえ」
弄ったポケットから短剣を見つけた樹が、ニィと嗤う。
「そんなに僕が憎いですか、カイさん」