知ってたよ、全部
そう思っても睡魔には勝てず、今ここで舌を噛み切ることもできず、ショクはゆるゆると眠りに落ちた。
*****
懐かしい海の囁きに、脳が掻き回される感覚。
――にいさま。
妹の声が聞こえた気がした。
瞼を下ろしたままのショクでもわかるくらい、床が揺れていた。
――にいさま。
うっすらと瞼を上げると、牢とも樹の寝室とも異なる天井が映る。
体を起こそうとして、縛られていることを思い出して諦めようとしたとき、腕が動くことに気づいた。
ゆっくりと体を起こす。
薄暗がりの中の景色に見覚えはない。
「――」
夢? と言おうとして、やはり声が出ないことにむっとする。
同時に現在の自分の置かれた状況をすべて思い出し、はっと周りを見回すが見張りはいなかった。
罠か。
――にいさま。
そうだとしても、この声に抗えない。
扉を開けて外へ出ると、沈みゆく太陽の光が目を刺した。
船に、乗せられているらしい。
どこか遠くから歓声が聞こえる。甲板で何かしているのだろう。
そういえば樹の師は樹が今日、見合いをすると言っていた。
なのにショクは見張りもなくここにいる。
余興は最後ということか。
いつも下から眺めていた船に自身が乗っていることがどこか現実ではないように思えて、ふらふらと柵へと近づく。
もう泡に還れなくても、このまま海に――。
「にいさま!」
柵を掴み、見下ろした明るさになれた視界に映ったのは、海と妹だった。
「にいさま、流です! わたしがわかりますか!」