籠の鳥と言いますが
「勇者さまに、神のご加護がありますように――」
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杜今は避けようとしなかった。
珠里は、見ていた。
賢志が杜今を刺すのを見ていた。
「“お前と真桜が逃げるのは止めない。その代償を、見届けろ”」
杜今に託された言葉を珠里が言い終わる前に、彼は事切れた。
「――どっちにしろ、きみたちを捕まえなければ待つのは死。ならば、逃亡者たちに殺された方がいいんだって。わけわかんない。ね、賢志、真桜」
賢志はうろたえていなかった。
愛する人がいれば、幼馴染なんてその他大勢なのだ。
「今度は命を大切にする時代に生まれたいよ」
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「賢志、本当に見届けるのォ?」
珠里は気が進まなかった。
共に旅をした真桜の処刑の日。賢志はこっくりと頷き、杜今は「好きにさせてやれ」と珍しく弱気に囁いた。
「ちょっと、用を足してくる」
何気ない言葉だった。
ひとりになりたいのだろう、と珠里はその背を見送り、杜今は腕組みをし目を瞑っていた。
「逃げたぞッ!」
「捕まえろッ!」
どうせまた、泥棒だろうと杜今と目配せをした。
また賞金が増えて困っちゃうなあ、そんな感じで。
「勇者が魔王と逃げたぞーッ!」
ふたりは慌てて駆けだした。
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幼馴染ふたりを埋葬した後の賢志の表情は固かった。