籠の鳥と言いますが
もう一度言った杜今は珠里を置いて歩き出した。
「あ、ちょっと待ってよォ」
追いかけようと足を踏み出すと、今度は力が入った。
服はぼろぼろだったが、傷は治っている。
「杜今ッ、ありがと!」
照れ屋な幼馴染は振り返ってくれなかった。
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魔王城へは春の村、夏の村、おわりの里、秋の村、冬の村、四季の街を経由する必要があるのに、珠里と杜今は春の村以降、剣士たちに会わないまま四季の街まで来てしまった。
情報もなにひとつ掴めてはいない。あと5ヶ月。長いのか短いのかよくわからない時間だ。
勇者と魔王のふたり組の噂はどこへ行っても伝わっていた。依頼屋経由以外にも懸賞金がかけられているため、にわか剣士の数は相変わらず多く、偽の情報を掴まされることもある。
「なんだか戸惑ってるみたいね」
責任を取って自主的蟄居中の王女さまが魔王城前にいた。
「春の村を出立する前に貴女に会えれば、面倒も減ったのでしょうけど」
杜今が苛々を隠そうともせずに言うと、実桜は上品に片眉を上げた。
「自身の力不足を人のせいにするなんてひどいわ」
「限度というものがあるのです」
剣を抜こうとする杜今の前に珠里は踏み出し、言った。
「不自然です。あんなに偽の情報ばかりなんて」
「勇者とお兄さまが撒いたものよ」
「無理です、王女さま」
真桜は力を失い、賢志の術を使った痕跡は杜今が見抜く。
「この先は魔王城」
実桜は歌うように軽やかに告げる。
「知ってます」
珠里が冷静に返すと実桜は嫌そうに睨み返してきた。
「いるわよ、あなたたちのお目当ての人」
「で?」
「あら、なあにその失礼な態度」
我儘で自己中心的なところは実桜も真桜も変わらない。ただひとつ言える。真桜の方が思い遣りがある。