四季の都 | ナノ

籠の鳥と言いますが

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 こいつ、やっぱり性別を偽ってるんじゃないのかなんて言ったらやっぱり怒られるのだろうか。

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 春の村でパン屋の前で珠里は真桜と鉢合わせてしまった。杜今は用を足しに行っている。
 真桜は踵を返した。
 追いかけるか否か迷ったのは一瞬。彼を追って踏み出そうとして珠里は後ろに飛びのいた。
 先程まで珠里の首があった場所を賢志の剣が横に薙いでいた。
「きみが相手ってわけね」
 珠里が睨みつけても賢志は無表情を崩さなかった。
 彼は一足で間合いを詰め、避けようとすると胸が切れた感触がした。
「……ぁ」
 浅いとわかっている。
 わかっているのに動けない。体から力が抜けていく。
 術を掛けられたのだと気づいたときには、賢志の姿はなかった。
「何をしている」
 体が痺れて、怒りを含んだ杜今の声に振り返ることもできない。
「あー。賢志に切られたのォ」
「ふん……。わかっただろう」
「うん」
 賢志の瞳に珠里を傷つけることに躊躇いはなかった。
 本気なのだ。
「ねえ、解いてえ」
「何を」
「何って、術だよォ。俺、動けない」
 杜今がしゃがんで珠里と目線を合わせた。
「腰が抜けただけだ。――あいつは敵だ、認識しろ」
「そんなばかな」
 愕然とし、珠里は目を伏せた。
 この俺が切られたくらいで腰が抜けるわけがない。
「賢志は、敵なんだ。俺たちの手で葬るぞ。それがあいつへのせめてもの――」
 自身へ言い聞かせるひとりごとのように言った杜今は片手で顔を覆った。
「敵だ」



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