四季の都 | ナノ

籠の鳥と言いますが

しおり一覧

 ごめんと小さく呟くと、杜今が気まずそうに振り返った。
「……いや。俺も苛々していた。悪かった」
 素直に謝ってくれる杜今が好きだ。
「洗うっていうより、乾かすねえ」
 自分の思考が恥ずかしくなり、珠里は杜今からシャツを奪うと扉の外へ飛び出した。

*****

 妹が生まれると、両親はそちらに掛かりきりになった。
 ちょうどその頃、旅の占い師が父王に進言をした。
 王子が将来、国に災いをなすと。
 父王はこれ幸いと真桜を追い落とそうとした。だから真桜は逃げた。すべての人々の記憶からこの国の王子の記憶を消し、剣士となって市井に紛れた。
 真桜と名乗るたびに魔王だと揶揄された。
 ならば、本当に魔王になってやろうと思った。
 真桜は剣を捨てた。

*****

 皺の寄った乾いたシャツを着た杜今は相変わらずの仏頂面で、これからの旅を思うと珠里は依頼を放棄したくなった。
「何を見ている」
「ん? いや、杜今が剣を握ってるのを見るのが久し振りだなあって」
「誰のせいだッ」
「自分のせいでしょォ」
「珠里ッ!」
「んもぅ、うるさーい」
 四季の街外れにあった魔王城から春の村の更に奥にある城下町へ飛ばされ、城にいる王からは毎日催促の伝令が来るし、しかしどこをどう回ればいいか見当もつかないふたりは再び魔王城を目指すことにした。
「移動魔法って本当に便利だよねえ」
「……なんか一生、賢志を捕まえられない気がしてきた」
「あ、確かに」
 追い詰めても移動魔法を使われたら終わりだ。



*前次#
backMainTop
しおりを挟む
[5/11]

- ナノ -