籠の鳥と言いますが
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朝日を反射する水を張った盥を撫でて、珠里は溜め息を吐いた。
結局一睡もできなかったこちらとは対照的に杜今はまだ眠っている。
「王女さまあ、引き籠ってないで出ておいでえ」
水を掻き回すと、バチンッ! と固い音を立てて弾かれた。右手が痺れる。
どいつもこいつも姿をくらませるのが好きらしい。
万事休す。
地道にひとつひとつの村を探していくしかない。
「とーい。起きて。朝だよォ」
腹いせに盥の水を顔面に落とすと杜今が飛び起きた。
「お前はどうして“普通”ができないんだッ!」
「普通って、俺にとっての普通だから仕方ないよォ」
びしょぬれの杜今に胸を頭突きされ、右手が痺れたままの珠里は受け身が取れず頭から床に突っ込んだ。
お互い様だと珠里は思うが、杜今はまだぶつぶつ言っている。
「杜今。あんまり悩むと禿げるよ」
「どうせうちは禿げる家系だから、その問題は解決している」
律義に答えた杜今は潔く上半身の服を脱ぎ捨てた。
「最悪だ」
「もっと最悪なお知らせえ。王女さまにも弾かれたよォ」
「洗え」
会話の流れを無視して杜今がシャツを差し出す。
「えー、やだ!」
「お前が原因だろうが!」
今ここに賢志がいたら、黙って空を見上げただろう。
今ここに真桜がいたら、笑いながら仲裁に入ってくれただろう。
「寂しいなあ」
思わず漏れた言葉に驚き口を覆うと、杜今が珠里に背を向けた。
本当に怒らせてしまった。
「……杜今ぃ」