四季の都 | ナノ

君を信じる理由

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「ね、秋一」
 手の届かない場所にある彼の体。
 人気のないこの場所では助けを呼ぶこともできない。
 息苦しさに眩暈を起こしかけたとき、別の声が響いた。
「安心しろ、鼻血だ。……たぶん」
「え、それちょっとひどいんじゃない? 頭を切ったときの血ってよく出るよー」
 真司と恭介が間延びした話をしながら姿を現した。
「どういうこと?」
「さあ。俺は部屋で真司の帰りをただひたすら待ってただけだったんだけど」
 困ったように笑う恭介はそれ以上語らなかった。
 じゃらりと音を立てて、鍵穴に差しこまれた鍵の意味がわからない。
「開いた開いた。よかったね、瑞樹。ほら、真司。抜いてあげてよ」
「ああ」
 しゃがみこんだ真司が秋一の首からきらりと光る何かを抜き取った。
「針?」
「そうだ。しばらくしたら目を覚ますはずだ。血はそっちで止める方法を何か考えろ。牢の中でぼんやり突っ立ってないで、出てこい」
 恭介が扉を開き、瑞樹の手を引いた。
 外だ。
「瑞樹。どうか、幸せに」
 秋一を背負った真司が苛立ったようにこちらを見ている。
 にこりと微笑んで別れを告げた恭介はいつもの幼馴染だった。
*****

 さて、その後の彼らをどう語ろうか。
 程なくして意識を取り戻した秋一は瑞樹と共に姿を消した。
 領主の葬儀は予定通り執り行われたが、その遺体を見たものは護衛であった柚葉以外になく、仕えるべき相手を失った柚葉も城を去り、その行方は杳として知れない。
 彼らと親しかった亮介だけがかの地に留まっていたが、幼馴染たちとの思い出を語ることはなかったという。

*****

 という結末はどうだろうか、なんて真顔で言う秋一へ、瑞樹はにこりと笑って首を横に振った。
 肯定も否定もなく、その両耳には橙のピアスが光っている。


君を信じる理由 おわり
2013/03/04


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