君を信じる理由
友人同士は黙って視線を交わした。
「秋一、どういうことだ」
「それは僕の方が……。いや、昨日、城下で真司が領主を殺したと聞いた」
「恭介は自室でぴんぴんしてるぞ。少なくとも昨晩まで」
不自然に言葉を切った真司が窓から飛び出した。
秋一は悪寒を振り払おうときつく目を瞑ったがどうにもならない。
作り置きしていた針の場所を見ると、代わりに真司が置いたらしい代金が鎮座していた。
数えるまでもなく、足りない。
「慈善活動じゃないんだぞ……」
ぼやきに答える者はない。
300の重みに気づかなかったわけがない。あるだけ持っていったのだろう。
代金はあとで必ず徴収する。
誰がどんな目的で嘘の情報を流したかなんてどうでもいい。
目指すは城。
*****
もうすぐ冬を迎えるとなると、夏の都といえどそれなりに寒い。
石造りの牢ならば尚更だ。
他の牢には人ひとりなく、瑞樹はひとりで鉄格子の嵌まった窓を眺めていた。
足音が響いても、見向きはしないつもりだったのについ振り向いてしまったのは柚葉のものではないとわかっていたからだ。
鉄格子の外からこちらを冷たく見下ろす秋一と目が合ったとき、瑞樹は小さく笑った。
「別れを言いに来た」
「そう」
淡々と告げた秋一はじっと瑞樹を見据えたまま、なかなか口を開こうとしなかった。
「瑞樹と出会うまで、僕はひとりでも生きていられた。だから、これからも瑞樹がいなくても大丈夫に決まっている」
自身に言い聞かせるように、秋一ははっきりと紡いだ。
「そうだね」
隙間から手を伸ばし、彼に触れようとした手は撥ね退けられた。
「僕に触れるな」
静かだが怒りを感じさせる声に、瑞樹は黙って頷いた。
牢の外から改めて恭介の死を亮介より知らされたとき、初めて涙が出た。
一方的に秋一を傷つけたにも関わらず、慰めてほしいと思ったがそううまくはいかないらしい。
どうしようかと思ったとき、秋一が崩れ落ちた。
顔面から落ちたらしく、床に血が広がっていく。
「……秋一?」
返事がない。