四季の都 | ナノ

手放す者

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 哀しみよりも、諦めに近い痛みが胃の奥をじんわりと焼いた。
「僕は――瑞樹が真司を殺そうとした理由として、いち早く危険を察知したからだと主張したら罪が軽くなるかもしれない、と思った」
 感傷に浸っていた瑞樹を、秋一の言葉が引き戻した。
「真司を知ってるの?」
 勘だった。
 名前に込められた苦々しさは、単に人伝えに聞いた名前ではないように感じる。
 秋一ははっきりと首を縦に振った。
「友人だ」
「……ねえ、どうして」
 現在形に、膝が震えた。
 先程、恭介の死を知らされたときよりも血の気が引いていくのがわかる。
 この絶望は、亮介の手によって罪人の証を穿たれたときと同じ。裏切りによるものだ。
「俺のことを拾ったのは復讐?」
「いや」
 秋一が哀しそうな瞳で瑞樹を見ることに腹が立ってきた。
「領主の恋人が真司だったと――ひと月ほど前に、知った」
「なら、なぜ今、再び俺を受け入れた!?」
「僕は感情が薄い」
 寂しそうに秋一は呟いた。
「憎いとか、嫌いだとか、自分のことであってもあまり思わない。他の人間が絡んだことなら尚更だ。他はどうでもいい。僕が、瑞樹のことが好きなんだ」
 冷や汗が吹き出してきた。
 目の前が揺れ、足元から崩れ落ちそうになるのを必死で押し留めた。
「ねえ、秋一。君の友人が俺の大切な人を殺したんだよ?」
「僕が殺したわけじゃない」
「だとしても――俺は秋一が憎いよ」
 想いが詰まりすぎる故にその言葉は宙に浮いた。
 瑞樹の現状や恭介に関する、すべての元凶である真司ではなく、友人である秋一を責めても仕方がないとわかってはいても、止まらなかった。
 瑞樹はピアスを自分で外し、床に叩きつけ、家を飛び出した。

手放す者 おわり
2013/03/03


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