四季の都 | ナノ

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 瑞樹が戻ってきて数日が経った。
 以前と異なるのは、瑞樹が外へ出ようとしないことだ。
 それでも秋一は夜明け前から工房に籠り、週の始まりには城へ献上するため城下に出ていた。
 いつも通り淡々と城下に入ると、なんだか空気が暗かった。
 それでも気にせず、城まで来たが入れなかった。
 領主の恋人が、領主を手に掛けたらしい。
 ああ、すべては終わったのだ。
 真司は役割を果たし、おそらく逃げおおせている。
 現在の領主に子はなかったから、夏の都は新たな領主を据えて開かれたものとなるだろう。
 ふと瑞樹のことを思った。
 瑞樹の罪そのものは消えないが、もう一度、訴えを起こして罪を軽くすることはできるかもしれない。
 いや、そうじゃない。
 領主の近衛を務めていた瑞樹は、幼馴染の死をどう思うのだろう。
 葬儀は7日後に行われるらしい。


 帰ってきた秋一は落ち着きがなかった。
 常に表情の薄い彼が、正であれ負であれ感情を表すことそのものが珍しく、瑞樹は内心首を傾げた。
「瑞樹」
 食事を終えると、秋一はひどく真剣な顔をして瑞樹を呼んだ。
「ん?」
 ただならぬ様子に、瑞樹も姿勢を正し秋一を見返す。
「瑞樹が、領主の近衛をしていたことを聞いた」
「うん」
 いずればれるだろうとわかっていたから、ただ素直に頷いた。
「領主の恋人を、殺そうとしたことも、聞いた」
「それで?」
「領主が恋人に殺された」
 それは、驚くほどあっさりと瑞樹の胸に収まった。
「そう」
「驚かないのか」
「うん。どう反応すればいいかわからないだけかもしれないけど。そんなこともあるかもしれないって思ってたから」
 真司が恭介を手に掛けた。
 恭介があの男ひとりしか見なくなった時点で、瑞樹の幼馴染である恭介は死んだも同然だった。


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