守る者
「何の用だと訊いている」
柚葉と紹介された男が黙って頭を下げた。
驚くほど瑞樹に似ている。
でも、こいつに選ぶとしたら緑だ。
「追放9番と言ったら、おわかりでしょう」
「私は、我が愚兄、瑞樹がこちらに御厄介になったと伺い、個人的に参上いたしました」
「知らない。帰れ」
「秋一さん」
弟。
だから必死なのか。
すげなく撥ねのけると、亮介がついと目を細めた。
「あのピアスはあなたにしか外せない。それを知っているのはあなたと領主である恭介、そして裁判官であるこの私だけ」
「罪人の弟が裁判官の護衛。夏の都は呑気なものだな」
「罪を犯した本人以外を貶めることなんてしませんよ」
「せいぜい、寝首を掛かれないようにな」
「ご親切にどうも。あなたの罪は問いません。もし、追放9番がこちらへ来たら、すぐに自警団にご連絡を」
「知らないと言っている。これ以上、僕の邪魔をするな。今週末、城に上げる分が完成していない。それでは、失礼」
一方的に扉を閉めても、気配は残っていた。
まったく、面倒だ。
*****
幼馴染の手によって左の耳朶に穴が開き、罪人の証を穿たれた。
裁判官御自らなんてちっともありがたくない。
何の感慨もなく、牢の外は日の当らない城壁なのだと知った。
*****
秋一の生活に、瑞樹はするりと馴染んだ。
そして、表面上は何の痕跡も残さずに消えた。
昨日、街で瑞樹に関する情報をかき集めた。
領主の恋人に、領主の近衛が切りかかり追放された。
しかし、近衛はまだ領内に留まっており、先程、目撃されたのだと。
経緯は明かされていないが、領主と近衛は幼馴染で、近衛は領主へ淡い恋心を抱いていたが第三者が割り込んだ末の三角関係だとか、領主の恋人に横恋慕した近衛がいっそ殺して自分のものにだとかに違いないと玉子屋のご婦人は語った。
下世話に脚色されているが、要するに殺人未遂だ。