守る者
秋一が帰ったとき家の中は空だった。
手掛かりがないかと部屋を探すと、昨日瑞樹が読んでいた本がなくなっていた。
街に出たのか。
今から秋一が街に出ると、帰ってくる頃には日が暮れてしまう。
暗くなると、夜盗や獣たちに遭遇し危ない。
悩んだのは一瞬。
『今日は帰らない。帰ってきてこの手紙を読んだら、瑞樹も書き置きを残すこと』
書き置きを残し、秋一は街に出ることにした。
夕食の買い物をするために人通りが多くなるはずの街は、自警団が物々しく闊歩しているせいか閑散としていた。
貸本屋のいくつかに検討をつけ、瑞樹が読んでいた本の題名を探すと、どこにも揃っていた。
本はもう、返された後らしい。
「橙のピアスをつけた男を知らないか」
「ああ、またか」
最後の貸本屋で主人に訊ねると、うんざりしたような返事がきた。
「さっきのにいちゃんにも話したけどね、すぐに人混みに紛れたんだ。俺はなんにも見ちゃいねえ」
「……そうか。それは失礼した」
「自警団だからって威張ってちゃ、足元を掬われるよ」
「肝に銘じておく」
いつも通り、無表情を貫けたと思う。
よろけそうになる足を、かろうじて前に進めた。
自警団が瑞樹を探している。
もう捕まったかもしれない。
いや、それならばこの数の自警団はいないはずだから、瑞樹はまだ逃げている。
*****
来客を告げる鈴が鳴ったとき、秋一は自宅から離れた工房にいた。
瑞樹はその存在を知らないから、きっと近所の誰かだろう。
一睡もできないだろうと思っていたが、気を失うように寝入ったおかげで頭は冴えていた。
「こんにちは、秋一さん。夏の都の裁判官、亮介と申します」
扉の外に、ふたりの男が立っていた。男は自己紹介しかしなかったが、秋一は表情を変えなかった。
「何の用だ」
「これは失礼。こちらは現在、私や領主の護衛を務める柚葉です」