四季の都 | ナノ

壊す者

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 あの男は淡々と言った。
「反論は?」
「いいえ」
 他の場所ではどうなるかわからないが、夏の都では犯罪者の家族に類が及ぶことはない。
 翌日、通常の手続きで瑞樹は牢から出された。
 どこへ行ってもいい。
 その罪人の証を持つ者を受け入れる場所など、どこにもないのだから。
 かつて、瑞樹が裁かれる人々を見下ろす立場だった頃、追放とはなんて甘い処分だと思っていた。
 3日以内に夏の都を出て、一生戻らなければ、生きるも死ぬも自由だ。
 しかし、自分が追われる者となってわかった。
 まず、夏の都から出る前に力尽きる。そして、罪人が領内を出ていないことを確認した自警団に回収されて再び牢の中だ。
 運よく出たところであのピアスを外せない以上、罪人であることを隠せず雇ってくれるところもない。
 希望を捨てない、人の気持ちを利用した、残酷な刑だと思う。


「放っておけば死ぬと思ったんだがな」
 貸し本を返しに街に出た。
 店を出たとき、目の前にあの男がいた。
 恭介が真司と呼び、溺れたあの男が。
「まだ領内にいるとはわかっていたが」
 帯剣しているわけがない。今の瑞樹はただの領民なのだから。
 それでも癖は簡単に抜けるものではなかったらしく、瑞樹の手は何もない場所を掴もうとする。
 相変わらず、綺麗な顔をしている。しかしまったく生気が感じられない。
「あの男も馬鹿だ。俺の口を塞げばお前を守れたものを」
「今日は随分と饒舌だね」
 下手に逃げると目立つ。
 それに、一度は負けた相手だ。見た目に騙されて油断はできない。
「そのピアス、よく似合っている」
 無感動に言われてもまったく嬉しくない。
「護衛もなしに、歩いていいのかい」
「お前の弟より、俺は強い」
「なるほど」
 一気に詰められた間合いを引き離すのが精一杯だった。
 荷物を投げ出し、人混みの中に飛び込んだ。


壊す者 おわり
2013/03/02


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