壊す者
世事に疎い自覚はあったが、週に1回、城内に入り込んでいる自分が知らなかったことは多少、驚いた。
領主へ献上する、罪人用のピアスの入った箱が肩掛け鞄の中で音を立てる。
瑞樹に作るところを見られたくなくて、訊かれないことを幸いにずっと黙っていた。
持ちだしの多い私設の裁判所をもつ夏の都は、きっと他の土地に比べ裕福なのだと思う。
領地の中でも特に城下は賑わっていて、秋一は擦れ違う人々の表情は明るいものだと信じていた。
大通りを抜け、城に入り、手続きをして荷を下ろすと何もすることがない。
確かに言われてみれば、城の人々は疲弊しているように見えるかもしれない。
でも、どうでもいい。
ふらふらと再び城下へ戻ると、そのまま帰路についた。
「おかえりー」
「ただいま」
日が一番高いところに上っているとき、秋一は帰ってきた。
「お腹空いた」
「わかってるって」
我儘な家主の要望に応えられるよう、昼食の準備は早目にしてある。
「……また、街に出たのか」
「うん。せっかく時間があるから、有効に使いたいなあって」
ローテーブルに積み上げた貸し本を見ながら秋一が問うたので瑞樹はふわりと笑って答えた。
情報収集のために出た街では、次第に追放された罪人の噂も終息しつつあった。
もし、まだ恭介の領内にいることがばれたらどうなるのだろう。
いくら夏の都が裕福であっても、犯罪者を養える財力はない。つまり、終身刑はない。
今度こそ処刑かな、と他人事のように考えて、瑞樹は秋一を呼んだ。
*****
領主立会いの下、行われる裁判。
普段は原告と被告の家族しかいない傍聴席は、領主の幼馴染が被告という話題性に釣られた領民で犇めき合っていた。
見守る人々の期待を裏切って、まったく普通の裁判だった。
無表情で眺める恭介、無感動に両者の言い分を聞く裁判官は、同じく幼馴染の亮介。その傍らには、苦々しそうに瑞樹を見る弟の柚葉がいた。
瑞樹と共に、恭介の近衛を務めることを飛び上がって喜んでいた弟。
この法廷の中で、唯一感情を表している柚葉に、瑞樹は落ちつけ、と言いたくなった。
「ふたりきりになったとき、いきなり切りかかってきた。領主の近衛だと知っていたから、油断していた」