壊す者
罪人として、故郷を追放された。
彷徨い、ひと月もしないうちに死ぬだろうと思っていた瑞樹は、奇妙な男に拾われ、3ヶ月も生き長らえている。
秋一は夜明け前に姿を消し、昼頃、家に戻ってくる。
その間に食事の支度を整え、部屋を掃除するのが瑞樹の役目だ。
どこに行っているのか気になるが、なんとなく訊けずにいる。
買い物に出ていると、秋一の帰りの方が早かったようで、不機嫌な瞳に出迎えられた。
「遅い」
「はいはい、ごめんね。もうちょっと待っててね」
故郷にいた頃は家事なんてしたことのなかった瑞樹だが、ここ最近は板についてきている。
ただ単に家事をぼんやりやるなら、上達はしなかったかもしれない。
「……悪くない」
ぼそりと呟き、綺麗に平らげてくれる人がいるからこそだ。
*****
瑞樹の放った刃は、確実にあの男の胸を差し貫くはずだった。
気がつけば自身の喉元に突きつけられ、呆然としている間に縄を打たれた。
*****
読書をしている瑞樹を後ろから眺めるのが秋一は好きだった。
耳につけた、秋一のものであるという証がきらめくのが、好きだった。
街に出て本を借りてきた瑞樹は、文字が読めることを隠そうとしなかった。
きっと、彼の故郷ではそれが普通なのだろう。
「腹が減った。夕食が食べたい」
「んー。もうちょっと待ってー」
上の空の返事も慣れた。
家に帰ったら誰かがいるというのはいいもので、それを気取られたくなくて瑞樹へはついきつくあたってしまう。
けれど、瑞樹は困ったように笑うだけだった。
名前と、罪人であること以外、瑞樹は何も語らなかった。
*****
領主が男に惚れこんだという噂を秋一が聞いたのは、道行く子どもが「夏の都は滅びるの?」と母親に訊いているときだった。
穏やかでない話題にいったい何の事かとその母親に問うと、4ヶ月ほど前から領主が自室に閉じこもり、熱を上げている男以外を近づけないのだという。