追われる者
「お前、名前は」
沈黙する瑞樹をどう思ったのか、家主が静かに問う。
「瑞樹。瑞々しい、樹木の樹。姓は、なくなった」
「そうか」
「ここって、どこ」
「僕の家だが」
「えーっと。地名は」
「夏の都だ」
ああ、じゃあまだ恭介の領地にいるのだ。
安心するような残念なような気分だ。
すっと耳に冷たい感触がした。
「やっぱり、似合う」
「……何色にしたの」
「橙」
どことなく嬉しそうな声。
しかし、罪人に装飾品を与えるとは。
代わりに何を要求されるのだろう。
「あー……。あなたの名前は」
「秋一。秋一番だ」
罪人用とは違い、自分でも外そうと思えば外せる、それ。
「俺は何をすればいいの」
「んー……」
秋一は腕組みをし、瑞樹を透かし見るように目を細めた。
「料理、だな」
なんとなく納得してしまった。
追われる者 終わり
2013/03/01