四季の都 | ナノ

追われる者

しおり一覧

 あの男にはどれが合うだろう。
 血に染んだピアスの番号は暗記した。もう必要のないものであるから、再利用の箱に放り込んだ。明後日には新しいものに生まれ変わっているはずだ。
 そこまで考えて秋一は唇を笑みの形に歪ませる。
 まったく今日は自分らしくない。
「戻りました」
「ああ。そこ、座れ」
 左耳は綺麗になっていた。
 それにしても、本当に色が白い。
 消毒用の強い酒を掛けると沁みるようで、息を詰めていた。
 今の内に。
 針を鍋から引き上げ、秋一は男の右の耳朶を貫いた。


 何が起こったかわからなかった。
 精神的な打撃で頭がぼうっとしている。
「まあ、ピアスホールが埋まるのを待っててもよかったんだが……。似合っていたから右も開けてみた」
 手当をしながら家主が何事かをほざいているが瑞樹の耳には入らない。
「あんた、いったい何を……」
「だから、右も開けた」
「なんで!」
「似合うからだと言っただろう!」
 ようやく口を開いた瑞樹へ悪びれることなく主張する家主。
 人殺しもどきに言われたくないだろうが、最低だ。
 もうこんなやつに敬語なんて使わない。
「埋まるのを待つ気はなかったの?」
「何度も言わせるな。似合っていたんだ」
 堂々と言い放った家主に反論する気力も失せて、瑞樹はテーブルに突っ伏した。
「お前は、橙だな。紅でもいいが、暖色がいいと思う。ほら、見てみろ」
 差し出された手を見ると、温かな光を放つピアスが家主の手の中から瑞樹を見つめていた。
「わかっていると思うけど、俺、罪人だよ」
「らしいな」
「勝手にあれ、外しちゃいけないんだけど」
 そもそも外せないということは置いておくとする。
「安心しろ、あれはもう捨てた」
 家主は愉しそうに笑い、胸を張る。
 駄目だ。
 この人、手段と目的が入れ替わる種類の人だ。


*前次#
backMainTop
しおりを挟む
[4/5]

- ナノ -