四季の都 | ナノ

追われる者

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「食べさせてやったんだ、感謝しろ。ほら、スープも」
「いやいいです自分で食べます大丈夫です」
「……そうか」


 家主が間違った方向の優しさを発揮しないうちに、瑞樹はスープに口をつけたが。
「うえええ、まっず……」
「文句があるなら食うな」
 当たり前のことを言われ、小さく謝る。
 長男として厳しく躾けられてきたと思う瑞樹だが、空腹で集中力が欠けていたのかうっかり本音が出てしまう。
 もしかして毒だったかも、なんて今更な疑問を抱きつつ、瑞樹は黙々と器を空にしていく。
「僕は先に風呂に入ってくる。お代わりしたければご自由にどうぞ」
「ありがとうございます」
「ああ、そうだ」
 一度は扉に手を掛けた家主がくるりと瑞樹に向き直った。
 そっと左の耳朶に触れられ体が強張る。
 何かを無理に引き剥がすような痛みと、どろりと膿の流れ出た感触がした。
「取れたぞ。消毒は風呂を出てからだ、いいな」
 手のひらに転がされたのは濁った赤に染まったピアスだった。
 どうして、と呟いたとき、扉の閉まる音がした。
 振り返ると、もう家主はいない。
 自分も大概ぼっちゃんだが、この家主も世間知らずだと思った。
 このピアスが何を示すものか知らないわけでもないだろうに外すなんて。
 手枷でもしないと、金目の物を奪って逃げるかもしれないのに。
 そもそも、特殊な技術を持つ者でしか外せないこれをどうやって外した。
 尽きることのない疑問の答えを探していると、家主が戻ってきた。
「裏の畑を突っ切ると川に出る。まあ、見ればわかる。上がったら火は消してこい」
 手ぬぐいと、恐らく着替えを渡され、瑞樹はよくわからないまま家を出た。
 畑。
 ああ、裏と言っていた。
 獣の臭いが強い。
 一瞬、怯んだが、視界の隅に映り込んだ炎と罠の仕掛けに気づきほっとした。
 しかし――野外で脱ぐのか。


 ピアッシングのための針を煮沸しながら、秋一はテーブルに並べた自分の作品を吟味する。
 凝った細工の為されたピアスも罪人を繋ぎとめるためだけのピアスもどれも手を抜いたことはない。


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