追われる者
罪人の証を抱えて快く受け入れてくれる場所なんてない。
僅かな誇りと、生きたくても生きられなかった友人のことを考えると死ぬこともできなかった。
我ながら早まったな、と思うがやってしまったものは仕方がない。
近くにあった樹の根元にずるずると腰を下ろして瑞樹は目を閉じた。
左耳につけられたピアスからじくじくとした痛みが広がる。
膿んできたかな。
でもどうせ、いずれは飢えて死ぬ。
その頃には痛みも感じなくなっているはずだ。
獣の臭いの混ざった春の夜風が瑞樹の頬を撫でていく。
……野犬の餌になるのが先かもしれない。
窓を開けると、湿気を含んだ風の中に獣の臭いがした。
最近、裏の畑が荒らされている。この際、一気に片付けようと罠を手に家を出た秋一は、家の傍の大樹の根元に転がるそれを見つけた。
人間の男だ。
むやみに近寄るべきではないとわかってはいるが、髪が短いこととその耳に光る罪人の証が気になってしまう。
自分の身は自分で守るのが原則だが、危険人物がうろうろしているならば、普段そりの合わない連中にも知らせて助け合わなくてはならない。
男は眠り込んでいるようだった。
足音を殺して近づき、じっとその様子を見つめていた秋一はふっと肩の力を抜いた。
罠を仕掛けて戻ってきたとき、まだこの男がいたら、そのときにまた考えればいい。
*****
瑞樹は夢を見ていた。
1週間ほど前の記憶だ。
幼馴染であり、領主であり、瑞樹の仕えるべき相手だった恭介が、どこから流れ着いたかもわからない男に熱を上げた。
最初は拒んでいた男も次第に心を許し、相思相愛となったふたりは幸せだったかもしれないが、周りは堪ったものではない。
男同士。
世継ぎが、なんて言う以前に嫌悪感が先立った。
そして、以前は領民たちと混ざって遊んでいた恭介があの男ひとりしか見なくなった。
善政は敷かれていたが、閉じこもりがちな彼を心配する声は日増しに高まっていく。
あの男さえいなくなれば、恭介は元に戻る。