四季の都 | ナノ

What's the matter?

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 文盲なんて、物語の中だけだと思っていた四葉が、耕造にからかわれたわけではないと気がつくのに数分を要した。
 そんな四葉を見て、耕造は自嘲めいた笑みを浮かべた。
「お前さ、たちわりぃ」
「え」
「冬の都の自警団見習いにするなんて。あっさり死なせないっていう護衛の言葉は本当なんだな」
 護衛がそんなことを。
 いったい何を考えているのか。
 しかし、すぐに護衛のことを頭から追い出した四葉は頷いた。
「ああ。きみはこの私に刃を向けた。償ってもらわねばならない」
「で、何。俺はお前の夜伽兼自警団見習いなわけ」
 耕造の自暴自棄な声音に、口端があがる。
「そうだな」
 ひくりと耕造の体が固まる。
「まずは、文字を覚えろ。話はそれからだ。期限は、一ヶ月」
 大きく見開かれた耕造の瞳。
 四葉自身が映っていることを確認するためには、もっと近づかなければならない。
 なぜこんなことを言ったか、本当は心の底で気づいている。
 思い出したくない、けれど大切な思い出が蘇りそうで四葉は小さく息を吐く。
「とりあえず、その本を返してくれ。まだ、読み終わってないんだ」
 耕造は動かない。仕方なく、四葉は白み始めた空を見上げた。
「俺が、文字を?」
 やがて耕造の口から零れ落ちた言葉は、戸惑いと僅かな歓喜が入り乱れている。
「そう。私が教える。もちろん昼は自警団見習いとして体を鍛えてもらう」
「筋肉モリモリが好み?」
 馬鹿馬鹿しくて返事を避けると、耕造が「マジで……」と呟いたのが聞こえた。
「寝ろ」
 きみは床で。
 言おうと思っていた台詞はなぜが喉の奥に留まり、代わりに耕造から本を取りあげた。
 とん、と耕造の肩を押し、その体が寝台に沈むのを見て四葉も隣に寝転がる。
 これから毎晩、耕造に字を教える。
 この物語を読み終えるのは随分と先になるだろう。
 胸に抱いた本は、ずしりと重かった。



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