四季の都 | ナノ

What's the matter?

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 命令に従うべきとわかっているのに、風月の口端は意地悪くつり上がってしまう。
 救護室ではなく、真っ直ぐ自室に来てくれたことへ礼を言おうと思っていた四葉は、やっぱり言うのをやめた。この護衛に敵うわけがないのだ。
「風月」
「はい」
「耕造はなぜ、躊躇いもなく命を断とうとしたんだと思う」
「それは本人にしかわかりません。あなたはなぜだと思うのです」
「俺は」
 四葉にもわからなかった。
 悩む弟の姿をじっくりと眺め、風月はくすりと笑って首を傾げた。
「あれは随分とぶれのある人間のようです。また、あなたに刃を向けるかもしれない。それでも、武器を持たせますか」
「くどい。もう決めた」
「わかりました。――あなたは」
 なんだ、と言いたそうな苛立った瞳は母に似ている。
「あなたはまだ何も失ってはいない」
「最初から何も持ってないからな」
「それはひどい。この私がいるじゃないですか」
 茶化すように言ったら、背を向けられた。
「風月」
「はい」
「お前最近、いやに俺に逆らうな」
「――すみません」
 振り返った弟の瞳は冷えていて、そんな思いをさせてしまうことがつらい。
 しかし、うまく表情を繕ったつもりの四葉は護衛の心中に気づかない。
「護衛は護衛らしく、私の身を守ればいい。お疲れ様。もう下がっていい」
「はい」
 一礼し、扉を出ていく。
 その間、領主は一度もこちらを見なかった。
「自警団見習いか」
 4つの都のなかで、最も悪質といわれる冬の都の自警団。
 その見習いとなれば命を落とす者も少なくない。
 四葉がおもちゃを手放すわけがないから、きっと、見込みがあるのだろう。自分にはわからないが。



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