四季の都 | ナノ

What's the matter?

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 地下牢の準備を整えに行ったひょろ長い男を見送り、ふたりきりの屋上。
「お前ら、俺をどうしたいんだよッ!」
「四葉さまの夜のお勤めを」
 耕造が食ってかかるが風月はさらりと流した。
「ッ、俺は男だッ!」
「ええ。見ればわかります。女装癖のある男性ですね」
「ッ、ちが、これは――ッ」
 面倒臭い、と舌打ちしたくなったが我慢する。
「脱走して、その場で切り捨てられなかっただけでも幸運なのにあなたはまだ何か言いますか」
「死ぬつもりだったから、別にいいッ」
「死ぬつもり? へえ」
 短剣を目前に突きつけると耕造の息が止まった。
「ひと思いになんか、死なせない。じわじわと甚振って、一族すべてに報復をする」
 耕造は震えた。小物め、と内心毒づき、数秒の時を経て離すと、目に見えて緊張が解ける。
「まあ、四葉さま次第だ。せいぜい、気に入ってもらえるように努力なさればよろしい」
「風月さま。お支度が整いました」
 息を堰き切って、ひょろ長い男が迎えに来る。随分と早い。これは賞賛に値する。
「御苦労さま。――では、行きましょうか」
 男を労い、耕造の二の腕を掴んで無理矢理立たせる。
 舌を噛み切る度胸もない男なんて、関わりたくもないのに。
 あの弟の心を、射とめてしまったこの男。どうせおもちゃにされるだけだろう。
 長い長い階段を通って辿りついた地下牢。
 湿気だけではない、陰気な何かが渦巻いているように見えて、風月もあまり好きな場所ではない。
 耕造を閉じ込め、鍵を掛けた。
 振り返ることなく、風月は弟の自室へ向かう。
「入ってもよろしいですか」
「入れ」
 短いノックと同じくらい短い許可。
 静かに扉を開けると、ショックを受けたような瞳をしていた。
 所詮、この子もお坊ちゃんだ。気づかぬふりをして、足を一歩踏み入れる。
「あの者の処分をどうなさいますか」
「自警団見習いにしろ。男であることも明かせ」
 意外なような、意外ではないような弟の考え。



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