秘匿
ふたりの交歓の声など聞きたくはなく、さりとて王の前で耳を塞ぐわけにもいかない。
王は腕組みをして星を眺めていた。
「行くぞ」
「はい」
なにが哀しくて、想い人の乱れた姿を見なければならないのかと唇を噛みしめたコウが王の肩越しに見たのは、背中合わせに体を丸めて眠る王子と愛妾の姿。
「な。わかっただろう」
ハクの囁きに、コウは頷く。
うっかり、「この甲斐性なし」と思ってしまったことは誰にも言えない。
下々の者にとっては同性愛は忌むべきものだが、身分の高い方々にとって同性を愛することは一種の嗜みでもある。
羨ましいと思った。
同性を愛しても後ろ指を指されぬ彼が羨ましい。
そして、どうせお傍におくならこの俺にしてほしかった、なんて大それたことを思う。
「余程、わたくしにご執心と見えます、陛下」
眠っていたとは思えないセイの声に、コウは驚き彼を見る。
やはり、ぱっちりと瞳を開けていた。
「自惚れるな。俺は息子を心配しただけだ」
「さようにござりまするか」
ハクの嫌そうな返答に、毛布に包まったまま、喉の奥で低くセイは笑う。
「リュウは眠っているな」
ハクは気まずい沈黙を消したいようで、どうでもよさそうに言った。
「そのようです」
セイも肯定する。
なにもなかったことを確認する目的は果たしたのだから、そろそろ部屋を辞そうとしたコウの肩をハクが掴んだ。
「たとえ俺が身罷ることがあろうとも、リュウの傍を離れるな」
「おや、あなたに死ぬ予定があるのですか」
「50年後くらいにはな」
真剣に言っているというのに、セイは皮肉気な口調で、ハクも特に気にした様子はない。
「――お言葉、しかとこの胸に留めておきまする」
やっとの思いで絞り出した言葉も年長組には幼く聞こえたらしい。
セイと目が合うと優しく微笑まれた。