秘匿
「陛下、言葉遣いを改められませ」
動揺したコウと意に介さぬハク、それを咎め立てるセイに、コウは自分が夢を見ているか現実にいるのかがわからなくなってくる。
なんで一門番の名を王が知っているのだ。
「通してやってくれ。こいつはリュウのものだ」
「……セイさまがリュウさまのお命を奪うやもしれませぬ」
「そのときは王位継承者が繰り上がるだけだ。お前を咎め立てはしないよ、コウ。セイを通してくれ」
「あなたさまはそれでいいのですか」
出過ぎた真似とわかっていても、胸の内に燻る想いが言葉を紡ぐ。
ハクはニィと人の悪そうな笑みを浮かべた。
「いいから、息子にやったんだよ。よかったな、セイ。俺のお古でもあいつは欲しがってくれて」
セイは答えなかった。
「じゃあな、ふたりとも」
王が階段の向こうに姿を消し、セイとコウは顔を見合わせた。
「では、コウ殿。扉を開けてください」
「セイさまは、よいのですか」
「よいのです」
セイはきっぱりと言い、コウへ優しく微笑んだ。
「どれほど罵りあおうとも、胸の内にいるお方はいつも笑っていてくださる。よいのです」
まだ、自分は幼いのだろう。
セイの言う意味がまったくわからない。
コウは諦めて扉を開けた。
セイを呑みこみ、閉まる音が廊下に響く。
「入ったか」
ハクが階段から姿を現してもコウは驚かなかった。
王は気配を綺麗に消していたが、なんとなくいる気がしたのだ。そんなコウの様子を見て取った王は苦く笑う。
「あいつも、俺がここにいることを知ってて言いやがって。白々しいんだよ」
「……なんでですか」
王はぼんやりとコウを見つめ、そして逸らした。
「鐘が4つ鳴ったら、入ろう。意味がわかるさ」
息を殺し、コウはそのときまで任務を続けた。