四季の都 | ナノ

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 約定を違えぬことを誓おう、ヒトの子らよ。
「あとどれほど生きられるのか知る者はいない。白兄上。ヒトとはそういうものなのです」
「だけどお前は、少なくともこの僕より先に死ぬ」
「ええ、そうです。今を生きる大切さを忘れている俺にとって、むしろ幸いであると言えます」
「兄上のために」
「誰のためでもないのです、白兄上」
 弟の自嘲めいた笑い声に、白波は俯く。
「白兄上。俺はこの世にひとり残るのは耐えられなかった。いずれは妻を娶り、子を為すでしょう。でも、俺はいつもひとりだ。生まれたときにいた兄上たちが傍にいないなんて耐えられない……」
「だから、兄上を残すのか」
「ええ、そうです。ひとりを知るなぎ兄上なら」
 ふたりは黙り込んだ。
「すみません、白兄上」
「いや、いい。どうせ兄上より長生きしたところで、僕も消されるでしょう。只飯食らいは邪魔者だ」
「白兄上!」
 真砂は怒っていた。
 光を持たぬ身であるからこそ、人の何倍も努力をし、知識を持つ自慢の兄だ。
 そんじょそこらの人間がこの兄に敵うはずがないのに。
「戦になれば僕は用済み」
 冷めた声に、真砂は泣きたくなる。
 遠くへ逃げたい。
 3人で。
 そこでのんびり暮らしていけたら。
 渚の養生をし、白波はその手伝いをし、真砂が稼いで帰ってくることができたら。
 あまりにもありえない光景を思い描き、真砂は大きく息を吐いた。
「白兄上。あとどれほどかわかりませんが、よろしくお願いします」
「ええ」
 ひとりがふたりになり、さんにんになってふたりになってひとりになって――。
 寂しいだろうな、と白波はぼんやりと思った。




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