四季の都 | ナノ

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 赤子用の寝台に横たえられている年の離れた弟にそっと忍びよる。
 すぐ下の弟の手を取り、その頬に触れさせる。
「ほら、触ってごらん、白波。これが俺たちの弟」
 病弱に生まれた自分と、光を持たずに生まれてしまった弟は当然のようにこの弟の存在を知らされず、近づくことも許されず。
 この弟が無事に育てばきっと、渚と白波は消される。
 だとしても、生まれたばかりの命を縊り殺そうなんて思うわけもなく。
「……赤ん坊」
「そうだ、白波。真砂というらしい。呼んでごらん」
「真砂」
 危なっかしい手つきで抱こうとするその手を支えた。
 気配を読み、常にぼんやりとした白波の視線は正確に真砂を捉えている。
 多大な期待を背負って、この子は生きていく。
「渚さま、白波さま。離れなさいませ」
 扉を振り向くと、真砂の乳母であろう女性と家令がそこにいた。
 やっぱり罠だったかと内心舌打ちし、渚は儚げと称される笑みを浮かべた。
「ああ、ごめん。どうしても弟を見たかったものだから。母上はどちらに」
「寝室で休んでおられます」
 渚と白波を生んだとき、母は若すぎた。
 未熟な体で子どもを産むのだ、多少は仕方がなかった。
 真砂。
 どうか無事、育っておくれ。


 病弱な自分の体ではすぐ下の弟の手を引いて外に出ることは叶わなかった。
 それを、真砂は堂々とやってのけた。
「しろあにうえ、はっぱがきれいです」
「どんなふうに?」
「えーっと……」
「真砂、僕にも分かるように説明しておくれ。兄上にも伝わるように」
「しろあにうえ、なぎあにうえにもってかえりましょう」
「――どうして?」
「ひゃくぶんはいっけんにしかず、です!」
「なるほど」
 嬉しそうに笑っているだろうふたりの声を、窓辺で聞いていた。
 幼い真砂に白波を連れまわせる範囲なんて決まっていたし、そして真砂が、渚が行けない場所へ行かないように気をつけていることも知っていた。



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