四季の都 | ナノ

妹は陸に憧れていた

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 こちらへ腰だめに剣を構えた流とそれを必死で止めようとする幼馴染がいた。
「なにをしている」
 鋭く問いかけると、妹はキッとショクを睨んだ。
「にいさまなんて、だいっきらいよ!」
 ざっくりと心の奥に刺さる言葉。
 恐らくショクを狙ったであろう剣がきらめく。
「姫!」
 幼馴染の背に庇われてもなお、ショクはぼんやりしていた。
「やめろ、姫」
「どきなさい、下賤の者!」
 幼馴染の剣が流の剣を弾き飛ばす。
 流はこれ以上ないくらいに憎しみに満ちた瞳でその軌跡を追っていた。
「にいさまなんて」
 心にぽっかりと穴があくような。
「だいっきらいよ」
 すべてを手放したような声と共に、流は闇へ飛び込んだ。
「汎(はん)」
 久々に名を呼ぶと、ふるりと幼馴染の背が震えた。
「なに、王子さま」
「――悪かった」
 流に刃を向けたくなかっただろうに。
「べつに。犯行を許したら、のちのち姫が悔やむだろうから。なあ、ショク」
「なんだ」
「ひとつ、耳に入れたいことが。言ってもいいか?」
「ああ」
「姫が、人間の男に恋をした」
 流が。
 恋。
「なんだと」
 凄味をきかせても、幼馴染は怯まない。
「助けた人間のひとりに恋をしたんだ」
 一目ぼれなどありえないと豪語していた幼馴染が真顔で語るさまはさながら悪夢。
「姫は、俺と同じ目をしてた」
 そこからの話を、ショクはあまり憶えていない。



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