妹は陸に憧れていた
「ま、冗談は置いといて」
「……冗談だったのか」
「あったりまえだろ。姫は地上の男に焦がれていらっしゃるんだからな。いいな。俺も地上に生まれたかったぜ」
最初から愛される資格がないんだもんな。
諦めたように笑う幼馴染のこめかみを小突くと、ふいと目を逸らされた。
「だから、いいだろ。見届けるくらい」
拗ねたような声。
――船を沈めた後なら、いいか。
しかし、すぐに甘やかすのはよくない。
「地上の男なら、誰でもいいとでも思ってるのか」
「もちろん俺だって、姫をそんな方だと思っちゃいないさ。なあ、許してくれ。本当に、見るだけだから」
「俺じゃなくて、流に訊け」
「ええー、姫に避けられてるからお前のところに来たのにー!」
「……やっぱりお前、来るな」
剣を突きつけようとすると、さっと壁際からショクの剣を取り応戦する幼馴染。
「窃盗だぞ」
「正当防衛だ」
ひとつ年下の幼馴染はニッと笑うと、そのまま剣を引いた。
今まで力を支えていたものがなくなり、流れに押されるまま突っ込みそうになる直前、なんとか剣先をずらす。
――嫌な汗が腕を伝う。
幼馴染は少し嬉しそうに笑った。
「ほーら。あんたは優しい」
「甘いって言いたいんだろう」
突き放しても、ふわふわと笑ったまま。
それにしても、流がこいつを避けているとは思いもしなかった。
「お前、なんかやったのか」
「べつにー。ただ、自分よりかわいい男は嫌なんだと」
「ふうん」
「あ、あれ? 怒んねーの?」
「なんで俺が怒るんだ」
「い、いやー、その〜。流の方がかわいいんだー、とか」