四季の都 | ナノ

妹は陸に憧れていた

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 傍を魚の群れが通り過ぎたときのような擽ったさは、風ということも知っている。
 手を動かしても、水が切れるような感覚が得られず、なんだか虚しくなった。
 あれから2年。
 ひとりでは寂しい上の世界も、妹と一緒なら楽しい気がして、ショクは目を細め、窓から水面を見上げる。
 背後から、視線を感じた。
「父上。入ったらどうですか」
「いや、娘の部屋に勝手に入るわけには……」
 海藻の向こうから聞こえる父王の律義な反論に、ショクは一度室内を振り返り、そのまま外へ出た。
「お待たせしました。流なら遊びに行きましたが」
「わかっている。衛兵たちも水上へ向かわせた」
 まったく、過保護なことで。
 茶化す言葉を呑みこんだが父には伝わったようで、じとりと睨まれる。
「今日は、この海で人間の王の船上パーティが行われるそうだ。夜だ」
 流を水上に出す日を変えろということか。
 しかし、父の表情を見る限り、そういうわけではないらしい。
「お前、船を沈めてこい」
 そして話は冒頭へ戻る。
 辿りついた自室で腕組みし、ショクは岩の壁に並ぶ手持ちの札を眺める。
 剣は毎日磨いてある。
 そして、この身の内にある力は――。
 そっと左手で喉に触れれば、苦笑が漏れる。
「おーい、ショク」
 海藻越しに幼馴染に呼びかけられ、息が止まりそうになった。
「どうした」
「俺も連れていけよ」
 海藻を掻きわけ招き入れてやると、幼馴染の男は唐突にそう言った。
 一瞬、父との会話を聞かれたのかと思った。
「とぼけるなよ。姫の成人の儀、今日だろう」
「貴様に流はやらん」
「えー、別にいいじゃんよー。高嶺の花に焦がれるくらい〜」
 実際、まともな婿候補はこいつしかいないけれど、ショクとしてはこいつと兄弟になりたくない。



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