四季の都 | ナノ

たとえば、魔法使いの毒薬

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「姫」
 どう伝えればいいかわからず、悩んでいると、体が水流に運ばれていく。
 淡く体を包む光は、月のもの。
 なんとか踏みとどまる。
「もう遅いぜ」
「だから、何のことを言っているの」
「あんたの軽はずみな行動のせいで」
 そして、俺の。
 言うべきではなかった。
 そうしたら、ショクはあんな、あんな――!
「ショクはもう戻らない。たぶん、戻れない」
 あの決意を秘めた瞳は、姫の成人の儀の日に見たものと同じだ。
「人間に、なったんだ」
 見開かれた瞳と次第に震え始める姫の体を、汎はどこか冷めた気持ちで眺める。
「姫の愛した人に、拾われていったよ。さあ、どうなるんだろうな。――これが、俺の知る全部。次は姫が知ることを話してくれよ」
 渦を呼ぼうとする唇へ切っ先を突きつける。
「く……」
「く?」
「曲者―――――ッ!」
 悲鳴に、衛兵が湧きあがる。
 舌打ちする間も惜しく、汎は魔法使いの棲家へ向かう。
 あそこは、いろんな意味で治外法権だ。



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