四季の都 | ナノ

たとえば、魔法使いの毒薬

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 どう、俺ってば天才でしょ。
 いたずらっぽく輝く瞳に騙されてはいけない。
「流はこれを欲しがるだろうね。たとえ二度と、泡に還れなくても」
「……人魚に戻る薬は?」
「作れなくはないけど、一度、人間になっちゃった人魚はそれを望まない」
 脳の奥に、母の優しい笑みが閃く。
「叔父上。俺は、自らの力で人間に復讐します。流にちょっかいをださないでください」
 真っ直ぐに瞳を射抜けば、魔法使いは、肩を竦めて笑った。
「欲しくなったら、いつでもおいで」
「二度と会いたくない」
 あまり力は使いたくないが、ショクは自らの名を呼び、突如現れた渦の中を一瞬で自室に戻った。
 まだ。
 まだ、あいつは流に薬を渡してはいない。
 だけど、あいつのことだから、量産型に違いない――。
 父に相談することもできない。
 あいつが、殺されてしまう。
 悶々とする気持ちを抱え、水上に出ると、妹と目が合い、逸らされた。
 その視線の先には、人間の城。
「私、人間が好き。とりわけ、あの人が私は一番、好き……」
 ひとりごとのあと、ゆっくりとショクに狙いを定める、哀しみの籠った視線。
「駄目だ、そんなの」
「では、にいさま。私に諦めさせてくださいませ」
「そんなの、自分で――」
 恋心を絶ち切ることなど、できはしない。
 あの諦めの悪い幼馴染のように。
 その瞬間、何かがわかった。
「わかった。流、この海に誓え。あの男のことを、この俺が諦めさせることができたそのときは、この海に生きる者として、正しい振る舞いをすることを」
 人間を愛するなんて、許さない。
 試すようにショクを睨んでいた瞳が、怯えの色に染まる。
「……はい」
 小さな声を聞き届けた風が、空へ帰っていく。
 妹がどんな顔をしていたかなんて、知らない。



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