図書室の主 | ナノ

番外編

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 亮介はケータイを弄んでいた。

 いつになく苛々している。

 原因は朝、届いていたメール。“寛樹をデートに誘ってください”、そんなの誰に指図されることじゃない。

 内容と差出人不明、というのにも腹が立つが、何よりもデートという単語。

 ――亮介と寛樹が付き合ってることを知っている。

 不愉快だった。悪意のようなものまで感じてきた。

 亮介の恋人、寛樹は隠し撮りが趣味だ。隠し撮りと言っても、彼の被写体はそのことを知っているし堂々とカメラを取り出してフラッシュを焚くので隠していない。

 もしかして、そのことで恨みを買ってる……? いや、亮介自身も恨みを買いやすい性格ではあるが……。


「かわいいなあ……」


 呑気に呟く声に更にイラッとした。寛樹は亮介の部屋の片隅で自作の隠し撮りアルバムを眺めニヤニヤしている。

 まったく、恋人がどんなに悩んでいるかも知らないで! と言いたくなるが言わない。言ったところで気にしないし、亮は俺の恋人だからデートであってるじゃん、くらいは言う。


「ヒロ」


 返事なし。恋人の呼びかけよりも、嫌いな男の写真が大事ってどういうことだ。泣きたい。


「亮介」


 いつのまに近づいてきたのか、ふわっと抱きしめられた。


「泣くな、亮介」


 どうやら気配だけで亮介の心を読んだらしい。幼馴染って恐ろしい……じゃなくて!


「だったら俺が苛々してるときに抱きしめろよ!」
「嫌だ。亮介怒ったら怖いだろ」
「亮介の全部が好き! って言ったの誰だよ」
「おばさまじゃないのか」


 しれっとした顔で言う寛樹に脱力した。

 なんで俺、ヒロが好きになっちゃったんだろうなんて言ってももう遅い。


「デート行くぞ!」
「えー、まだアルバム見終わってない」
「生身の俺を構え!」
「え、いつになく積極的な台詞」
「……」
「ごめんって亮ちゃん!」

 誰がなんて言おうと、俺らは俺らだ。


おわり。



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