図書室の主 | ナノ

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 知らなかったわけじゃない。

 寛樹には、亮介の代わりなんていくらでもいた。

 亮介と付き合う前、不特定多数と付き合っていたこと。

 亮介と付き合ってからも、ちょくちょく遊んでいたこと。

 脱がせたときに見える赤い痕を誰が残したか、なんて自分以外の誰かくらいしかわからない。

 それでも亮介にとって、寛樹しかいなかったから気づかないふりをした。

 寛樹から告白してきたものの、亮介はたくさんいるうちのひとり。

 ただそれだけの、こと……。


「じゃ、今から練習始めるから出ていってくれる?」


 見慣れた笑顔。

 どこで俺は間違った。

 俺から好きだと言えば、この未来は変わった?

 寛樹を抱き寄せキスをしたら彼に突き飛ばされ呆然とする。


「やめてくれないかな。汚らわしい。恋人でもないくせに」


 恋人ではなくなったけど、関係は幼馴染で。

 そんな冷めた目で、軽蔑した目で。


「ヒ、ロ」
「出ていって。邪魔。ねえ、消毒して」


 以前まで亮介のものだった、そう思い込んでいただけで、みんなに向けられていた甘い眼差しを受けた後輩はにっこり笑った。

 そしてまた、後輩とキスを始める寛樹。

 黙って音楽室を去った。

 寛樹を諦められるか。そんなわけない。亮介だけの、幼馴染。浮気されても恋人だった。

 階段を下りるとき、合唱部員たちから会釈をされた。彼らに、自分はどう映っていたのだろう。

 次期部長の幼馴染。そう、ただの幼馴染。

 恋人には見えていなかったはずだ。この学校の校風もさることながら、寛樹自身が部員たちの前で亮介といることを嫌がったから。

 浮気相手とは、どこでもべたべたしてたくせに。ああ、もしかして俺が浮気相手だった?

 そんな考えが浮かんで、知らずと笑みが浮かんできた。

 俺にだって、お前の代わりはいるさ。

 かわいさ余って憎さ百倍。これからの計画を静かに練りながら亮介は自教室で頭を抱えた。

 頬を伝う涙も、今だけは。


おわり。


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