本編
ぱちっとウインクする恭介と顔を真っ赤にして俯く緒方。
ああ、もうこいつら。
「恭介」
「ん?」
「今、俺すっごくお前にムカついてる。――ありがとう」
恭介に蹴りを入れて、緒方に礼を言った。
緒方はにっこり笑った。
「諦めない方が勝ちだぞ」
「っ! 緒方、それって……!」
「樋山は黙れ。――清水。もう一度訊く。岩本が好きだろう?」
「ああ」
「岩本を振り向かせたら、俺のところへ来い」
「あー、相談したから?」
「そうじゃない」
緒方が亮介の耳元に口を寄せる。
「いわゆるダブルデートというやつをしてみたい」
低く囁かれた言葉に、こいつにも蹴りを入れようかと迷ってやめた。
ひどく幸せそうな顔だったから。
「恭介に言ってやれ」
「えー、なになにー? ふたりともなんで今日はそんなに仲よさげなのー?」
「樋山には関係ない。じゃあ清水、健闘を祈る」
「あ、ああ。さんきゅ、ふたりとも」
小説スペース入口で上靴を履いて、振り返る。
恭介は懲りずに緒方にかじりついていて、緒方の肩越しにふたりで本を読んでいた。
諦めない方が、勝ちというからには、つまりはそういうことなんだろう。
ヒロ。
お前が俺を好きだったように、俺は今でもヒロが好き。
諦めきれないよ。
だから、ヒロを振り向かせてみせるから――。
また俺に恋をして?
ふたりで思い出を増やそう。
おわり。