本編
「亮介、ごめん」
「謝られてもしょうがないよ」
自分で驚くほど冷たい声だった。
「それで、言ったの? その先輩に『好き』って」
「言えるわけないだろ。迷惑かかるし」
じゃあ、なんで亮介には言ったのか。
迷惑かけてもいいって思ったのか。
寛樹は膝を抱え、ひとりごとのように続けた。
「亮は、幼馴染だし、一緒にいて楽しかったんだ。でも今年一年、先輩や後輩たちを好きにならなきゃって思ってカメラを手にあの人たち撮り続けて、見てるうちに段々好きになってきて、亮は俺を止めてくれないし隠し撮りアルバム見てても平気そうにしてるし」
「俺のせいなの?」
「……違う。――俺にもわかんないんだよ、もう!」
寛樹の久しぶりの怒鳴り声で亮介は感情が一気に冷めるのを感じた。
「じゃあ、もう恋人じゃないな」
「え……」
「だってそうでしょう。ヒロは先輩が好き。俺だってヒロが好きだったわけじゃないのに勝手に告白してきて付き合って」
我ながら馬鹿なことを言ってると思う。
でも今は寛樹を傷つけて泣かせたかった。
――自分が泣いてしまいそうだったから。
寛樹が好きで、どうしようもなくて、ヒロが告白してきて自分は傷つかずに済んで自惚れた。
「俺、もう帰る」
「待って」
無視して音楽室を飛び出す。
どこにも逃げ場がない。どこへ逃げても、彼との思い出が多すぎる。
家に帰っても苦しい、でも他に居場所はない。
――ヒロが好きって言ったくせに。
――ずっと一緒にいようって言ったくせに。
――でも、本当は、俺がヒロのこと大好きで。
考えても感情はまとまらない。
もう、寝よう。
明日起きたら、すべてが夢だったらいい。
おわり。