図書室の主 | ナノ

本編

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 もう少し見た目に構えば人並み以上にかっこいい寛樹は本人の無頓着さ故に人並み以下……は言いすぎかもしれないが、十人並みになっていることは確かだ。

 つくづくもったいないと亮介は思う。思うだけだ。いつもは。


「ヒロも構えばかっこいいのにねえ」

 
 つい口が緩んでしまったのは春の陽気のせい。

 先程まで無表情だった寛樹の眉がおもしろいほど吊りあがる。


「かっこいいというのはな」


 ――きた。

 これから起こることを予想し、亮介は息を詰めて備える。


「いいか、こういうのを指すんだ。まずは先輩方だな。見ろ。このぱっちりした目!あどけなさと大人っぽさが同居した危うい初々しさ!年上だとは思えんほど幼すぎてときどき苛々させられるがそれはまあいい。そんなところもいいんだ!とくに、こっちのちょっと撮られているのを意識したぎこちなさなんか最高だな。まったく気づいてないのもいい。いや、それこそがまさに隠し撮りの真髄!あ、これは後輩だな。下の後輩に教えてちょっとお兄さんっぽいところがいいだろう!この、微妙な成長と年下へのはにかむような甘えた表情がたまらなくいい。これからも楽しみだ。これは学園祭の写真だな。カメラ目線が多いのはまったく邪道としか言いようがないがまあこのシチュエーションもおいしいから仕方がないが――」


 どこからともなく差しだされた彼作成の隠し撮りアルバムを突きつけられるのは何度めだろう。ちなみに表紙には堂々と隠し撮りと記されている。

 字面だけ見れば犯罪だが、彼が撮っているのを主な被害者――じゃなかった、被写体である彼の部活の先輩後輩も知っていて許容しているし(諦めたとも言う)、彼も撮ったものを本人たちに渡しているのでぎりぎり合法だろうと思う。

 寛樹は真顔で延々としゃべり続けている。何が悲しくて恋人から他の男への賛辞を聞かなければならないんだ。


「ヒーロ」


 呼びかければ、はっと口を噤む寛樹は普通にかわいい。


「俺のことも、見てよ」
「……ああ」


 ばつが悪そうに目を伏せる寛樹に、そんな顔をさせたいわけじゃないと言おうと思ってやめた。言えばますます伏せてしまうだろうから。

 撮ってとは言わない。寛樹の被写体は、――嫌いな人だけだ。

 これから好きになりたい人。好きにならなければならない人。

 亮介は寛樹に好かれていると多少の自負があるから、撮ってとは言わないが。


「ちゃんと俺を見て」


 彼が彼自身の気持ちに嘘を吐いて好きになろうとする姿は痛々しくて見ていたくない。

 好きだと錯覚しようとするその努力を知るのはたぶん亮介だけだ。なら、その姿を包み込むことができるのも、おそらく自分だけだと亮介は信じている。

 亮介のことを見てるときは、寛樹が嘘を吐かなくていいときだと――信じている。


おわり。



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